歯医者に関する驚きの科学

2025年7月
  • 歯の黒い点は削らずに治るのか?

    医療

    「歯にできた黒い点は、初期の虫歯なら削らずに治る」。こんな話を聞いたことがあるかもしれません。この「治る」という言葉に、私たちはつい、黒い色が消えて元の白い歯に戻ることまで期待してしまいます。しかし、歯科医療における初期虫歯の「治癒」は、私たちが風邪をひいた時の「治癒」とは少し意味合いが異なります。結論から言うと、一度黒く変色してしまった初期虫歯の色が、セルフケアなどによって完全に消え去ることは、ほとんどありません。歯の表面が黒くなるのは、虫歯菌が作り出した酸によってエナメル質が溶かされ(脱灰)、その部分に食べ物などの色素が沈着するためです。適切なケアによって歯の再石灰化が促され、虫歯の進行が止まって表面が再び硬くなったとしても、沈着した色素が消えるわけではないのです。では、なぜ「治る」と言われるのでしょうか。それは、虫歯が「進行する病気」から「進行が停止した痕跡」へと状態が変化することを指しているからです。活動を停止した初期虫歯は、言わば「虫歯の化石」のようなものです。黒い色は残っていても、内部でそれ以上進行する恐れがなければ、急いで削って詰める必要はないと判断されることがあります。むしろ、むやみに削ることは、健康な歯質まで失うことになり、歯の寿命を縮めることに繋がりかねません。そのため、現代の歯科治療では、進行の止まった初期虫歯は積極的に削らず、「経過観察」というアプローチをとることが増えています。歯科医院で定期的にチェックを受けながら、フッ素塗布や正しいブラッシング指導などを受け、これ以上進行させないように管理していくのです。つまり、黒い初期虫歯が「治る」とは、色が消えることではなく、進行を止め、歯を削らずに守り抜くこと。その正しい意味を理解することが大切です。