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最大の容疑者?「親知らず」が引き起こす喉の痛み
「風邪をひいたのか、片側の喉だけが痛くて、唾を飲み込むのも辛い」。そんな症状で内科を受診しても、一向に良くならない。そして数日後、同じ側の奥歯まで痛み出し、口が開きにくくなってきた。もし、あなたがこんな経験をしているなら、その痛みの本当の犯人は、風邪ではなく、一番奥に潜む「親知らず」かもしれません。親知らず、専門的には「智歯(ちし)」と呼ばれるこの歯は、一番最後に生えてくるため、スペースが足りずに、斜めや真横を向いて生えてくることが少なくありません。この、異常な生え方こそが、喉の痛みを引き起こす「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」というトラブルの元凶となるのです。智歯周囲炎は、親知らずと、その手前の歯や歯茎との間にできた、深くて複雑な隙間に、食べかすや細菌が溜まることで発生します。この場所は歯ブラシが届きにくく、細菌の温床となりやすいのです。そして、仕事の疲れや寝不足などで体の抵抗力が落ちた時に、この細菌が一気に増殖し、歯茎に強い炎症を引き起こします。親知らずは、口の一番奥、喉に非常に近い位置にあります。そのため、ここで起きた強い炎症は、あっという間に周囲の組織に波及します。赤く腫れ上がった歯茎が、喉の粘膜を圧迫し、飲み込むたびに激しい痛み(嚥下痛)を感じるようになるのです。炎症がさらに進行すると、口を開け閉めする筋肉(咀嚼筋)にまで影響が及び、「口が開きにくい(開口障害)」という、特徴的な症状が現れます。また、体の防御反応として、近くにある顎の下や首のリンパ節が腫れて、さらに痛みを増強させることもあります。患者さん自身は「喉が痛い」と感じていますが、根本的な原因は、あくまで親知らずの細菌感染なのです。この場合、風邪薬や喉のトローチでは、全く効果がありません。治療の基本は、歯科医院・口腔外科での洗浄・消毒と、感染を抑えるための抗生物質の内服です。炎症が治まった後、このトラブルを繰り返さないためには、原因となっている親知らずそのものを抜歯することが、最も確実な治療法となります。もし、あなたの片側の喉の痛みが、奥歯の違和感から始まっているなら、まずは歯科・口腔外科の扉を叩いてみてください。