片側の上の奥歯が、何本かまとめて、鈍く痛む。そして、同じ側の喉にも、何か違和感がある。虫歯かと思って歯医者に行っても、「特に異常はありませんね」と言われてしまう。そんな、原因不明の歯の痛みに悩まされているなら、一度、視点を変えて、「鼻」の不調を疑ってみる必要があるかもしれません。その意外な犯人の名は、「副鼻腔炎(ふくびくうえん)」、特に、上の奥歯と密接な関係にある「上顎洞炎(じょうがくどうえん)」です。副鼻腔とは、鼻の周りの骨の中にある、空洞のことです。その中でも、頬骨の下、ちょうど上の奥歯の真上に位置するのが「上顎洞」です。そして、上の奥歯(特に、小臼歯から大臼歯)の根の先端は、この上顎洞の底の粘膜と、非常に近い位置にあるか、時には、骨が薄くて、ほとんど接しているような状態になっています。風邪やアレルギーなどが原因で、鼻の粘膜に炎症が起き、細菌やウイルスが副鼻腔にまで侵入すると、副鼻腔炎が発症します。上顎洞に炎症が起きて、膿が溜まると、その圧力や炎症が、すぐ下にある歯の根の先端を、直接刺激してしまうのです。これにより、歯そのものには何の問題もないにもかかわらず、まるで歯が痛むかのように感じられます。これが、「歯性上顎洞炎」とは逆の、「鼻性歯痛」と呼ばれるものです。副鼻腔炎による歯の痛みには、いくつかの特徴があります。①一本だけでなく、複数の上の奥歯が、まとめて鈍く痛む。②噛んだ時だけでなく、何もしていなくても、ジーンとした痛みが続く。③頭を下げたり、階段を降りたり、ジャンプしたりすると、歯に響くように痛む。そして、歯の痛みだけでなく、必ず、鼻や喉の症状を伴います。④色のついた、粘り気のある鼻水が出る。⑤鼻詰まり。⑥頬や、目の下のあたりに、圧迫感や痛みがある。⑦喉に、鼻水が流れる感覚(後鼻漏)があり、それが喉の違和感や咳の原因となる。もし、あなたの片側の上の歯の痛みが、これらの鼻・喉の症状とセットで現れているなら、その原因は、ほぼ間違いなく副鼻腔炎です。この場合、行くべき診療科は、歯科ではなく「耳鼻咽喉科」です。抗生物質などによる、適切な治療を受けることで、鼻の症状と共に、長年の悩みだった歯の痛みも、嘘のように消えていくことでしょう。