歯に黒い点を見つけても、全く痛みがなければ「まだ大丈夫だろう」とつい放置してしまいがちです。しかし、この「痛くない」という状態こそが、実は注意すべきサインである可能性をはらんでいます。なぜなら、歯の構造上、痛みを感じる神経は歯の内部深くにあり、ごく表面の初期虫歯では痛みを感じないのが普通だからです。歯の最も外側にあるエナメル質には、神経が通っていません。そのため、虫歯がエナメル質内にとどまっている初期の段階では、冷たいものがしみるなどの自覚症状はほとんど現れないのです。黒い点として認識される初期虫歯は、まさにこの段階にあることが多いのです。ここで「痛くないから放置して良い」と考えるのは大きな間違いです。適切なケアをしなければ、虫歯はエナメル質の下にある象牙質へと静かに進行していきます。象牙質まで達すると、冷たいものがしみたり、甘いもので痛みを感じたりするようになりますが、それでもまだ我慢できる程度の痛みであることが少なくありません。そして、さらに進行して歯の神経(歯髄)にまで達した時に、ようやくズキズキとした激しい痛みが現れるのです。この時点では、もはや大きな治療が必要となり、神経を抜かなければならなくなるケースも多くなります。つまり、「痛み」というはっきりとした自覚症状が出た時には、虫歯はかなり進行してしまっているのです。逆に言えば、痛みのない黒い初期虫歯の段階は、削らずに進行を止められる最後のチャンスかもしれません。痛みがないことを安心材料にするのではなく、むしろ「自覚症状がないうちに発見できて幸運だった」と捉えるべきです。そして、その幸運を無駄にしないためにも、速やかに歯科医院を受診し、専門家の診断を仰ぐことが、あなたの歯の未来を守るために最も賢明な選択と言えるでしょう。
痛くない黒い虫歯こそ注意が必要な訳