高熱が出て、片側の喉がナイフで刺されるように痛む。そして、なぜか同じ側の奥歯までズキズキと痛む。こんな症状が出たら、多くの人は「ひどい風邪をひいて、歯まで痛くなった」と考えるかもしれません。しかし、その歯の痛みは、虫歯や親知らずが原因なのではなく、喉の奥で起きている激しい炎症が引き起こしている「関連痛」である可能性が高いのです。その代表的な病気が、「急性扁桃炎」です。扁桃炎とは、喉の奥、舌の付け根の両脇にある、リンパ組織の塊である「扁桃(扁桃腺)」が、細菌やウイルスに感染して、強く腫れ上がる病気です。主な症状は、38度以上の高熱、強い悪寒、全身の倦怠感、そして、唾を飲み込むのも辛いほどの、激しい喉の痛み(嚥下痛)です。鏡で喉の奥を見ると、扁桃腺が真っ赤に腫れ上がり、時には、白い膿(膿栓)が付着しているのが見えます。この、喉の奥で起きている激しい炎症が、なぜ、歯の痛みを引き起こすのでしょうか。その理由は、口や喉の周りの感覚を脳に伝える神経(特に、三叉神経や舌咽神経)が、お互いに近い場所を走行し、複雑に連絡し合っているからです。扁桃腺の周囲で起きた強い炎症の刺激が、その神経ネットワークを通じて、脳へと伝えられる際に、脳が「痛みの発生源は、歯である」と、勘違いをしてしまうのです。これが、関連痛のメカニズムです。痛みを感じているのは歯でも、実際の火元は、喉の奥にある、というわけです。この場合、いくら歯医者さんに行っても、歯には何の原因も見つかりません。鎮痛剤を飲めば、一時的に歯の痛みは和らぐかもしれませんが、根本原因である扁桃炎を治療しない限り、痛みはぶり返します。扁桃炎の治療は、細菌感染が原因であれば、抗生物質の内服が基本となります。それに加え、喉の炎症を抑える薬や、解熱鎮痛剤が処方されます。もし、あなたの喉と歯の痛みが、高熱や、強い倦怠感を伴い、特に「飲み込む時」に喉の激痛が走る、という特徴に当てはまるなら、まずは「耳鼻咽喉科」を受診してください。喉の専門家による正しい診断と治療が、歯の痛みを含めた、全てのつらい症状を解決へと導いてくれるはずです。